家具のおじいさんの話

出張で東京や大阪に行った時は、できるだけ色んなお店を見て回ることにしている。で、見たり聞いたりしたことを帰ってきてスタッフに話す。みんな鹿児島は好きだけど、田舎ゆえの狭さを憂いているところはあって、わたしが話すと目をキラキラさせて聞いてくれるのが嬉しくてやっている。

 

というわけで今回はお仕事の話(備忘録に近いです)。

 

どこで何を見るか考えた挙句、目黒通り沿いにあるアンティーク家具を扱うお店を中心に回ることにした。好きな古着屋さんがあるけど今日はスルー。収穫があってもなくてもいいやというスタンスでぶらつく。

 

中目黒駅を降りて五反田方面へずっと歩いていく。夕方だからかオシャレな犬たちの散歩に出くわした。駅周辺こそあたり一辺洗練された街並みだけど、だんだん潰れたラーメン屋とか汚い定食屋がぽつぽつ現れる。そして、「松本民芸家具」の看板が目にとまる。

 

伝統工芸的な感じだったら違うかなぁと思いつつ入店。1階をぐるっと見て回り、階段を上って2階に上がると、「こんにちは」とおじいさんが声をかけてきた。

 

「ほらあなた、あの奥にあるソファに座ってみて」と促され、驚きつつレンガ色のクッションが綺麗な1人がけのソファに座る。「はい、そしたらこっちのソファに座って」ぱっと見同じデザインの、3人がけのソファに移る。座ってみると全然違くて、こっちの方が断然、安定感がある。今まで感じたことがないくらい、座り心地がいい!

 

「全然違うでしょ。そっちは西洋の寸法で、今座ってるのが日本人向けの寸法だから」

 

おじいさんによれば、日本人は小柄で胴が長く(西洋人よりも腸が3m長いんだって)家では靴を脱いで暮らしているから、靴を履いたまま生活をする大柄な西洋人の家具は身体に合わないそうだ。身体に合わない椅子は椅子ではなくてただの腰掛けだと言う。

 

「でも、みんなカリモクやマルニの家具がいいって言うでしょ。何がどういいの?家具は生活に関わるものなのに、見た目でしか選べない。そんなだからみんな身の丈に合ってないデカいソファを買うんだよ」

「どこでどんな家具を買ったっていいけど、何がよくてそれを買うのか。それが見た目しかないって言うのがね」

なんだか説教に近い調子で、おじいさんは繰り返す。

 

その後もおじいさんの家具談義は続く。この店にある家具はその道20年以上の職人たちが丹精込めて作っていて、デザインは昔から変わらない。椅子で言えば1脚10〜15万ほどするが、親子三代で使えるくらい丈夫だと聞くと、なるほど安く感じられる。実際、展示してある家具は30〜50年前に作られたものばかりだが、ガタつきは一切ない。新品は黒に近い見た目で、年月が過ぎると明るくなり木目がはっきりしてくる。その時間の経過も楽しんでほしいそうだ。

 

1時間ほど話を聞いて退店(長かった…)。でも私も一応商売人の端くれとして、色々考えさせられた出来事で。自分たちが売っている商品は果たして本当に生活に必要なかたちをしているかとか。仮にそうだとして、何がどうよいのか伝えられているのか、とか。何を元に価値判断を行うかはお客様に委ねられているけど、まずは私たちが情報を提供しなきゃね。

 

すごく悶々としたまま鹿児島帰ってすぐ、仲良い社員3人で飲んでこの話をしたんだ。そしたら思いの外みんな熱くなっちゃって、なんか学生に戻ったみたいに語り合ってた。それが妙に嬉しかった。久々にワクワクした夜だったんだよ。